shouwagenrokurakugoshinjuu
Shouwa Genroku Rakugo Shinjuu
1
昭和元禄落語心中
Usurahi Shinjuu
usurahishinjuu
薄ら氷心中
ねえ、如何して目を合わさうともしないの。何故。屹度
「直視に耐へない。」とでも云ふのでせう。だうせ。ぢやあ
一体誰よ。こんな女にしたのは誰。
ねえ、待つてゐたんだよ追つて来てくれるのをずつと。
やつと会へたつてのに抱いてもくれないのか。一寸。あゝ
人生ご破算。お前さんあんたの所為だつて。
分かんないの。仕合せつて何。何れが其れだつてのよ。
面倒臭いわ。脳味噌も腸もばら撒いて見せやうか。骨の髄
まで染め抜かれた女をご覧なさい。
好きよ大好き、皆あんたに上げる。いゝえ。嫌ひ大嫌ひ
よ、矢つ張り返して今直ぐ。なんて。まう遅いわ南無三。
お前さんで出来てんだ、全部。
分かつてんの。仕合せも、不幸も、刻一刻消え失せる。
冷やこいやうで温かいこの手が、味わひ尽くしたわ。これ
以上は何にも無いと思ふの。憎く可愛い人よ。痛いやうで
気持ち良いお別れよ。過ぎ去つたあの日々。留めてゐるまゝ
の生命ごと終はらせて仕舞ひたい。
薄らいで行くわ。私は独り法師。
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